今月の少女趣味こうなあ 二十二
ほぐす 吉野弘
小包みの紐の結び目をほぐしながら
思ってみる
―結ぶときより、ほぐすとき
すこしの辛抱が要るようだと
人と人との愛欲の
日々に連らねる熱い結び目も
冷めてからあと、ほぐさねばならないとき
多くのつらい時を費やすように
紐であれ、愛欲であれ、結ぶときは
「結ぶ」とも気付かぬのではないか
ほぐすときになって、はじめて
結んだことに気付くのではないか
だから、別れる二人は、それぞれに
記憶の中の、入りくんだ縺れに手を当て
結び目のどれもが思いのほか固いのを
涙もなしに、なつかしむのではないか
互いのきづなを
あとで絶つことになろうなどとは
万に一つも考えていなかった日の幸福の結び目
―その確かな証拠を見つけでもしたように
小包みの結び目って
どうしてこうも固いんだろう、などと
呟きながらほぐした日もあったのを
寒々と、思い出したりして
虎さん 吉野弘(よしのひろし)さん。一九二六年生まれの詩人です。私の好きな詩人の一人です。「祝婚歌」とか、「奈々子に」「生命は」「夕焼け」などは特に有名です。
ご隠居 「I was born」っていう詩もあったなあ。
あれなんか初めて読んだ時感激して、なんかまだ小学生か中学に入ったばかりやったと思うけど、娘に読み聞かせたこと覚えとるわ。先日娘がわしにその話をしていたんやけど、あの時は意味はよく分からなかったけど、お父さんの熱い思いは覚えてると言っとたわ。
虎さん 詩って言うのは、突然分かったりしますね。
ご隠居 味が分かる年になったらな。突然わかるんやなあ。
熊さん 今月は味尽くしですな。